'19AW Collection

Pearl - 真珠 -

日常の移ろいを映すもの

画家の藤田嗣治の回顧展を観に行ったとき、渡仏した直後に藤田は冬のパリの曇り空を「真珠のような空」と表したと綴られているのを目にしました。私たちも宇和島に訪ねたときにふと、空も海も真珠の色と似ていると思ったのですが、パリも同じなのだと不思議な感心を覚えました。光と影が折り重なったグレーのトーン。

私たちはアコヤ真珠のグレーパールが特に好きです。藤田の見た冬の曇り空のように光と影を含んだようなグラデーションや、夏の海のような深いグリーンやブルーも映し出す。チューブから出した絵の具とは違って何色と言い切れない繊細な色彩。晴れの日や雨の日、その日その時の光を映し出すように、見るたびに表情が繊細に移ろいます。それは白くて丸い珠だけでは知り得なかった、真珠の日常的な愉しみ方です。

今季はこのグレーパールを一粒ずつ擦り落として、ゴールドに彫留めるという昔ながらの作りを踏襲しています。彫留めてゴールドと一体にすることで、特に指輪において真珠が飛び出ず、日々纏うものとして成り立ちます。

正直な話、生命の賜物である真珠に刃を入れるのはやや畏れ多くもありましたが、思えば私たちが好きな古いパールのジュエリーは、天然の真珠を長い月日をかけてコツコツと収集し、地金に合わせて一粒ずつ加工をしながら使っています。地金と真珠が一体になり使われてきたであろうジュエリーの深い質感は、真珠の尊さをもより感じさせてくれる姿でした。宝石を輝かせるためだけに爪で高く掲げる近代の文化よりも、ずっと素材を丁重に扱っていたと感じるのです。そうした時代の後押しもあり、私たちはグレーが強い珠にはホワイトゴールドを、白が強い珠にはイエローゴールドを合わせて、質感を一体に馴染ませるように仕立てました。

真珠には、その日その時が映っている。だからこそ、日常をともに過ごし、日々移ろう姿を味わいながら、素敵な時間を重ねていけるものでありたいと願います。