アトリエを立ち上げて以来、私たちは変わらず愛用する豊かさについて思い巡らせてきました。時代が進むとともに爆発的に増えた情報量と、平準化していくものたちの姿を見ていると、果たして心から愛されるものが生まれているのか疑問を抱くことが増えました。けれど同時に、古いジュエリーのようにかつての持ち主の気配を宿したものや、時を超えてその後も大切に守られている存在があることも、私たちは確かに感じていました。有名無名を問わず、時代や国も超えたところに浮かぶ一人ひとりの小さな日々の痕跡に、私たちの心は打たれます。愛用の豊かさとは、過ぎ去ったはずの過去の時間や記憶と再会することなのではないかと思います。

こうした探求で得た気づきや感動を、私たちは自らの文章と写真とで記録することにしました。ジュエリーを生み出すだけでは語りきれない、宝物のような出会いを忘れたくなかったからです。以来、自分たちの物作りにおける記憶を記す器として、〈BOOK〉を編む活動を続けています。ジュエリーを作ることと同じくらい、この〈BOOK〉は私たちの大切にしている記憶の入れものだと言えます。

私たちのジュエリーを手にしてくださった方が、そこにどんな時を重ね、どんな記憶を宿していくのか。私たちの興味はいつもそこにあります。この先も様々な記憶の形に出会うことを楽しみにしています。