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霧の中で

日光を訪れた数日間は天気がぐずつき、山間はずっと霧が出ていた。快晴の美しさもさることながら、白い霧に包まれた景色はとても美しかった。遊覧船から見た湖ごしの遠い山並みもたくさんの木々も、霧に溶け込むことで同じ景色となり、一つの水墨画を見ているようだった。

水墨画には、"滲み"や"ぼかし"といった技法がある。特に日本では湿潤気候である日本の風土や空気感を伝えるために、紙の余白と馴染ませる技が好まれたという。確かに私は景色を見ているのか、余白である空気や光を見ているのか、境界線が曖昧になっていく心地を覚えた。けれどその中にいると、静かな余白の中に風によって雲が流れたり、光によって雨粒が煌めいたりと、繊細な事象が無数にレイヤードされていることにも気づく。繊細な重なりによって生まれてきた静けさだと思うと、心に染み入った。

白と黒の中に積み重ねられた繊細なレイヤード。今季選ぶことになった黒蝶貝と水晶は特に、その景色と重なる存在だった。黒蝶貝には透明な真珠層が長い時間をかけて織り重ねた積層から生まれる、深い艶が浮かんでいる。それがより引き立つように磨き上げた。透明な素材である水晶は、手前と奥をカットによって作り出し、光と影を重ね合わせた。あの景色につながるような、繊細なレイヤードたちだ。