Product Journey

姿を印す

古いシグニットリングを見るたびに、これは持ち主がいたものなのだ、と当たり前のことを思わせます。長い時間を経て少し薄れながらも残った手彫りのモノグラムが、不在の誰かの存在を今も浮かび上がらせている。

装身具の持つ役割の一つに、その人の“印”となれることがあります。古くからシグニットリングは印台の面に家の紋章やイニシャルを刻み、身につけて判子のように使われてきた指輪です。誰かに見せるためというよりも、自分である証明のために携えていたもの。まさに“印”を体現する装身具です。その本質的な役割に惹かれ、私たちも長らく研究を続けてきました。そして今季はようやく、イニシャルを手彫りで刻み入れるという仕立てにも取り組むことができました。

イニシャルとして彫りいれるアルファベット26文字は、その人を表す分身となります。それがただのAからZの記号となってしまうのは味気なく、それぞれが美しい姿であってほしい。だから今季は、26文字一文字ずつデザインすることにしました。一見すると模様であって、よく見ると文字が浮かび上がる。印台面という余白を活かしながら彫りいれる感覚は、書に近いものがあったように思います。共に研究に取り組んでくれた手彫り職人は、カリグラフィーと書道の折衷をうまく掴み、一つずつ刻んでくれています。

装身具は身につけるほどにその人に馴染みます。深く刻まれた印は、さらに時間を重ねてその方だけの味わいへと育っていく。そしてもしかしたら、その方よりも長い時間を過ごすかもしれません。いつか訪れるその時にも、あなたという存在を静かに照らし出すような印であってほしいと思うのです。