‘23 Autumn & Winter
PROLOGUE

はじめに

今年よく読んでいた本の中に、染色家の志村ふくみさんの随筆がありました。そこに登場する「アルカイックな織物」という言葉が心に残っています。アルカイックを直訳すると“古風で素朴なさま”という意味ですが、この文章内ではもっと原初的で純粋な感覚に立ち返ることを示唆していました。

振り返ってみると、私たちの今季の取り組みもアルカイックな物作りであったと思います。今回取り上げた〈瑪瑙〉と〈黒蝶貝〉は、私たちにとって原点の素材です。〈瑪瑙〉は同じ模様が二つとなく、自然の美しさをいかに作り手の作為なく引き出せるかを試されるような素材です。〈黒蝶貝〉も色のない世界の中での陰影の美しさを気付かされた素材で、どちらも自然との対峙を肌で感じる取り組みでした。また原初的な工芸として“手彫り”にフォーカスし、スタンダードな金の指輪に様々な表情を浮かび上がらせたことも、とても原初的な試みでした。

そのように原点に立ち返るような装身具研究は、私たちに完璧な形式美だけではかなわない、味わい深い美しさを教えてくれたと思います。このコレクションたちが醸し出す、ほのかな懐かしさ。アルカイックな美しさを、どうぞ感じて頂けましたら嬉しいです。

2023.08 MEDERU atelier

’23AW COLLECTION

'23 September / SEASON <瑪瑙>

縞模様の積層を中心に、原石の中に多彩な景色を宿す素材〈瑪瑙〉。今季選んだ瑪瑙は、模様のまばらな透明感の高い原石です。まるで抽象画のようにぼんやりと浮かぶ景色を一つ切り出し仕立てます。見る人の心象や記憶に紐付き、味わい深い感動を教えてくれるコレクション。瑪瑙はすべて1点ものとなりなくなり次第終了です。

'23 September / SEASON <Mother of Pearl>

南洋の海に生息する黒蝶貝。その艶やかな黒は透明な真珠層の重なりによって生まれるため、均一な黒色ではなく、光と影を宿したとても柔らかな墨色をしています。時とともに表情が移ろい、経年の変化が現れるのも特徴的。大人の女性にふさわしい、上品で味わい深い黒です。〈黒蝶貝〉は12月下旬までのSEASON限定受注です。

'23 October / BASIC <Tinty & Old-Cut Diamond>

BASICでは”手彫り”にフォーカスを当て、スタンダードな金の指輪や定番の〈Chain〉シリーズなどに対する彫り留め探求に取り組みました。ダイヤを留めることで生まれる地金の質感や余白のバランスなど、シックな味わいをデザインしています。また、オールドカットダイヤをあしらった1点ものの作品たちも追加されます。