'24 Autumn & Winter

BASICS _ Old-cut diamond

柔らかな温もり

 生まれて初めて目にしたものがなんだったのか、覚えている人はそう多くないだろう。けれど想像するに、赤ん坊の自分を覗き込む母や父の眼差しだったのではないだろうかと思う。私たちが世界で最初に目にするのは、優しい瞳の光だ。

今季のOld-cut diamondで集めたピースを見て、いつにも増して穏やかな懐かしさが込み上げた。ブラウンともセピアともヘーゼルとも言えるその色調は、澄んだ印象を保ちながら、優しい光をたたえていた。柔らかで温かなピースを眺めている時、たまたま飼い犬がそばに寄ってきた。彼女と目を合わせてふと気づく。そうか、これは瞳の美しさと似ているのだ、と。

私たちはこれまで長らくオールドカットを探求し、手仕事の時代の未成熟なカットがもたらす、自然な瑞々しさや余白に魅力を感じてきた。ブラウンのオールドカットダイヤは特に好んでコツコツと集めてきた。現代の輝き至上主義のダイヤの価値観から離れたところで、その穏やかな美しさこそ日常にふさわしいと思っている。 でも、魅力はそれだけではなかった。私たちの瞳の色や潤みに似ているのだ。

日本の人は黒い瞳と思われがちだが、実のところはブラウンが基調となっていて、その濃淡の違いであることが多いそうだ。一つ一つに浮かんでいる繊細な濃淡の違いも、奥行きも、小さな瞳を覗き込むようである。素肌に溶けこみ、心に馴染む。その感覚は、私たち自身が受け継いだ光と似ているからこそ呼び覚まされるのだろう。

これは個人的な思い出話となるが、昔のヒット曲に「瞳はダイアモンド」という曲がある。(※ここではダイアモンド表記) 筆者の名前が同じ読みだったので、母はその曲をカセットに入れてカーステレオで繰り返しかけていた。この曲の中で〈瞳はダイアモンド〉という歌詞は、一番のサビ終わりの一回しか登場しない。その一度きりの歌詞が来るたびに、母は一番の大きな声を出して歌っていた。

きっと、ダイヤモンドは宝石というよりも、宝物そのものなのだ。 この世に生まれ落ちて初めて目にしたであろう、眼差しの温もり。時間を経て消えゆくこともある尊い記憶を、最も純粋なかたちで結晶化してくれている。そして長い時間の中で砕けることなく、また次の世代へと繋げてさえくれる。そうした記憶に触れる光に、私たちはずっと心惹かれているのだ。

'24 Autumn & Winter

BASICS Old-cut diamond

LOOKBOOK

MEDERUでは、手仕事の時代に生まれた古いカットを総称して「Old-cut diamond」と呼んで取り上げ続けています。手仕事ゆえの不完全なカットから生まれる光は、現在の輝き至上主義の宝石の基準とは一線を画す、自然で静かな美しさをたたえています。今季はその中でも透明感の高いブラウンダイヤのピースを中心に、穏やかな温もりを感じるコレクションを仕立てました。同じピースが存在しないため、全て1点限り。今この時からこれから先の日々まで、持ち主を優しく照らしてくれるコレクションです。