‘24 Autumn & Winter
LOOKBOOK
記憶の依り代
アトリエでこの文章を書いている今、ようやく秋の足音が少しずつ聞こえてきたようです。夏から秋への移ろいは、心地よさと寂しさとが入り混じった空気を肌で感じることから始まりますが、近年はその濃度や速度が変わっているように思います。どこかの路地から漂う花火の匂いや、松虫の鳴く声が響く夜。少しずつ過去の記憶は遠い景色になっていく。
景色は変容し、元々あったものはだんだんと失われていく。それは決してセンチメンタルなことではなく、人間が生きることそのものであり、自然の摂理でしかありません。むしろそれを失うことではなく、失っていることにすら気づかないことに、現代の危うさがあるように思います。だからこそ、私たちは「思い出す」ことがそこに抗える一つの方法だと考えます。作家のカズオ・イシグロが『記憶は死に対する部分的な勝利である』と述べました。記憶が、いつか失われる私がその日まで私でいるための大切な”依り代”であるとしたら、私たちはそうした”記憶の依り代”として、ジュエリーを作っているのだと思います。
今季は奈良や熊野など日本の原初に触れ、古人たちの眼差しを感じながら、私たちの中に流れる記憶を辿っていくような物作りの旅でした。先人が残してくれたものから、また私たちは残していきたい美しさを掬い上げ、ジュエリーという小さな器の中に託して少しずつ未来に配っていく。そして、それがまたある人の記憶の依り代となって、他の誰かにとって愛着のある忘れたくない景色の一つを作り出す。そんな風に、さまざまな人や文化の「記憶の依り代」となるようなものを生み出していきたいのです。
’24 Autumn & Winter
COLLECTION
今季の素材探究〈LABO〉や、定番の〈BASICS〉をアップデートした一点ものなど、長くご愛用頂けるアイテムを揃えました。
- 一点ものは在庫状況が変動いたします。お取置きはできませんので、あらかじめご理解ください。
- 東京のsalonまたは移動展示会CARAVANにてご案内しています。直接のご来訪が難しい方はオンラインでビデオを繋ぐ「Online Boutique」でのご相談もご検討ください。
最新情報は「WEB LETTER」にてご案内しています
‘24AW LABO _ 地に根ざす赤
日本で最も最初に認識された色は「黒」と「赤」 と言われています。「暮れる」と「明ける」という移ろいの中に日々生きていた、私たちの感受性の根ざす色のように思います。闇の底にはすでに朝陽が潜んでいるように、人の中にはその人の生まれ持つ美しさはすでに根を張っている。そうした地に根ざした赤を象徴する”茜”をテーマにした、1点もののコレクションです。
Release : 9月中旬 ~ 12月末予定
‘24AW BASICS _ Autumn selection
今季はBASICSの中から〈Chain〉〈Nude〉のシリーズを中心に、極小ダイヤを彫り留めた特別なお仕立てをご提案いたします。手彫りでダイヤを一粒ずつ留める伝統的な手業を重ねることにより、元来のモダンなシルエットにさらに味わい深い奥行きを感じて頂けるものになっています。1点ものが中心となり、彫り留めのアレンジはこのシーズンだけのご提案となります。
Release : 10月予定
‘24AW LABO _ Special diamond one-off
アトリエでは古い手仕事の時代のカットを施し、輝きとは異なるダイヤの静かな魅力を探求しています。今季もこれまで集めてきたオールドカットピースを使い、古典的な石留めや意匠を研究しながら仕立てた1点ものたちのコレクションです。素材の持つ自然味、穏やかな色、潤み。それぞれのピースの美しさを生かした、特別であり日々に寄り添うダイヤが並びます。