‘25 Autumn & Winter
Old-cut diamond
揺るがないひかり
「結局、最後はダイヤなのよ」 これまで幾度かこんなフレーズを聞いたことがある。私よりも歳も経験も重ねた過去の女性たちの言葉なので、「まあ、きっとそうなのだろう」とぼんやり心に留めていた。けれど自分も歳を重ねてきて、この“結局”には、さまざまなものとの付き合いを経た上での選択眼と、自分自身の受容のような気持ちが含まれていることを感じ始めている。
歳を重ねるほどに、自分に嘘をつくことができなくなる。若い頃はおしゃれは我慢しても楽しむくらいの気概があったように思うけれど、歳を重ねた今、心身に嘘なく心地よくいられなければおしゃれとは言えない、とすら思っている。我慢と無理は表裏一体で、それは自分の本心との対話を無視することにも近い。特に忙しく駆け回る現代の女性たちにとって、いつも心身が健やかでいられることは、何より大切で最もシックなことだ。つまり大人になるとは、履き続けても痛くならないヒールの靴を、時間をかけて見つけることである。そしてダイヤこそ、”痛くならないヒールの靴”であると思う。
アトリエでは、ダイヤの本質的な魅力は原石が持つ透明感と、その内側に秘めた陰翳やニュアンスにあると捉えている。鉱物の中で最も硬い石ならではの照りがあり、ほんの少しのカットでうるうると潤む。一般的なダイヤのほとんどは機械で細かく面を作り、反射による煌びやかな輝きを人為的に作り出している。それも一つの美しさの表現だが、私たちは昔のハンドワークによるカッティングを選んでいる。オールドカットのダイヤは水辺のように潤み、陽だまりのように同じ表情は一つもない。ゴールドで包み込むように仕立てることで、より自然と地に足がつく。日常に穏やかに溶け込みながらも、しゃんと背筋を伸ばしてくれる。これさえあればどこへでも行ける、そんな気持ちを教えてくれる存在だ。
私たちはたくさんの痛みを経ながら、自分を大切にするための代えのきかない存在と出会う。特にジュエリーは装いの中でも最後に辿り着くもの。洋服のようにたくさん持つイメージもないし、私にはまだ早いと思うこともあれば、人によっては最後まで必要に駆られないかもしれない。けれどそんな人にほど、オールドカットダイヤが似合うと確信している。
媚びず、砕けず、寄りかからず。こう在りたいと願う姿を照らすかのように、凛とした光が「あなたは大丈夫」と連れ出してくれるはずだ。
‘25AW BASICS Old-cut diamond
LOOKBOOK
〈Old-cut diamond〉は、100年以上前の手仕事の時代に生まれた古いカッティングを特徴としています。ダイヤという素材が持つ透明感を引き出し、一つ一つのピースに宿る色やニュアンスある表情を生かすため、すべて現品限りの一点もの。今季は特にゴールドで包み込むような古典的な留め方を中心に、一体感のある端正な仕立てを多く揃えたコレクションとなっています。1点もののダイヤでは初めてピンキーサイズもご覧頂けます。