BESPOKE

11│自由への切符

依頼者 ── みづきさん 神奈川県在住
装身具 ── 祖父・父から受け継いだリング&ルース
素材 ── ダイア、オパール

この日持ち込まれたのは、ずしりと重みを感じるシグニットリングと、オパールのピースだ。女性のものにしては随分と大きい。それもそのはず、元々の持ち主はお祖父様、そしてお父様へと受け継がれた。昨年お父様が亡くなられ、形見としてみづきさんが受け継ぐことにした。ジュエリーに興味がなかった父が、祖父の旅の思い出が詰まったこの二点は形見として受け継ぎたいと珍しく申し出たことを覚えていたからだ。

思い出の品物は、缶の箱に入った大量の旅の足跡。切符や時刻表、外国のお金。みづきさんの家は、祖父から始まる旅好きの家系。祖父は戦後、ソ連時代にシベリア鉄道に乗ってモスクワを旅をしたなど、その時代としてはかなり積極的に旅をしていたようだ。今回持ち込まれたダイヤのリングはメキシコで、オパールのピースはオーストラリアで手にしたものだそう。その影響を受けた父はやはり旅好きに育ち、またこの時代には珍しく旅行会社のツアーではなく、自分で旅の計画を立てた。海外でも周遊切符を使って周るなど、様々な旅の武勇伝をみづきさんは幼い頃から耳にしてきた。

旅を計画することは、ひとりで生きる力に直結する。おそらく父は旅を重ねる中で自分の肌身に感じていたのではないだろうか。印象的なエピソードがある。みづきさんが中学生くらいの頃、テレビで香港返還のニュースが報道されていた。それを見た彼女は、「香港に行ってみたい」と強く思い、父に相談すると快諾されて実際に家族で香港へ行くこととなった。しかし現地で、「よし、どこに行きたいのか言いなさい」と父から促され目を丸くした。「自分で行きたいと行ったのだから、きちんと自分で計画しなさい」と父は言うのだ。みづきさんは子供なりに行きたいところを述べ、そこに連れていってもらった。その行き先に父は一切の文句を言わなかった。旅を通じて生きる力を養う。結果の責任を負う。この旅が、今のみづきさんの素地を作ったのは言うまでもない。

時を経て大人になり、みづきさんは自分の好きな飲食の仕事をするべくワインや日本酒などの勉強を重ね、縁もありフランスで働くことになった。父は母を連れ立ったヨーロッパ旅行とかこつけて、フランスまで様子を伺いにくることもあった。自立を願う父も、遠い外国で働く愛娘への心配は別の話のようだ。しかしそんな父の心配もよそに、みづきさんは10年という長い間、異国の地で働き続けた。その合間には、ヨーロッパの様々な国を巡りながら、たくさんの文化に触れた。自分よりも日本の地方や文化について詳しいと思う人に出会い、自分の知りたいことに貪欲なバイタリティに感銘を受けた。精魂を込めて続けてきた仕事を一区切りし、これからを俯瞰してみるためにも数年前に日本へ帰ってきた。これから先の夢は、自分のペースで働きながら、自分のために旅をすること。とりあえず47都道府県を制覇したいそうだ。

祖父、そして父からみづきさんが譲り受けたものは、“自分の足でどこまでも行ける”という、自立と自由への切符だったのだろう。そして彼女はこのインタビューの数日後、仕立て直したジュエリーとともに、猛暑のフランスへと颯爽と旅立っていった。