‘26 Spring & Summer
LABO _ 春光
光の輪郭
この二月の東京は、珍しく積もるほどの雪が降った。アトリエでも久々に雪の結晶をみることができた。さっきまで透明な空気の一部だった水蒸気が、冷気の中で形を結び、結晶となって現れる。なにもないと思っていた場所に、不意に美しい姿が立ち上がる。透明の奥には何かが潜んでいる、と知らせてくれる出会いである。
これまでアトリエでは長年、水晶を通して透明性の探求を重ねてきた。透明という「不在」を形にすること、その試行錯誤は、水晶を研磨彫刻し、「翳り」を引き出すという作りに至った。けれど今季、同じく透明なムーンストーンと向き合う中で感じたのは、「光」そのものの存在だった。
透明の奥に潜む「光」を象ることで、透明に形を与えることができるのではないか。石の内部に密やかに重なる、目には見えない薄膜の層。そこに研磨やカッティングできっかけを作ると、ただ通り過ぎるだけだった光が、ふと留まるべき場所を見つけたかのように、確かな輪郭を持って現れる。たゆたう光、揺らぐ光。透明が「光」を通じて豊かな深さを語り始める。
— 手作業で古いカットを施した
透明の底には、ひっそりと光が潜んでいる。 それは、見えにくいというよりも、あまりにも静かで、こちらが気づくのを待っているようだ。雪の結晶がやがて溶け、土の下で春の命が動き出す予兆となるように、ムーンストーンで見た光もまた、透明な沈黙の中にずっと伏せられていた「きざし」を宿しているように思う。
その手に、たしかな光の輪郭をにぎるとき。それは、冬の終わりと春の始まりが交差する瞬間の、あの微かな気配に触れる感覚にも似ている。ずっとそこにありながら、まだ姿を持たなかった光がたくさんあるのだろう。私たちは、その小さなきざしを、少しでも見つけていきたいと思う。