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Gold / 時が生みだす質感

私たちがブライダルリングを作る上で、最も大切にすることは「使い続けて美しくなる」ことです。ご結婚指輪は20年30年と同じ一つを着け続けるもの。つまり持ち主が過ごした時間がそのまま刻まれていきますし、小傷もへこみも時間の痕跡です。

手の甲に皺が増すことと同じように、指輪も歳を重ねていく。最初は同じように見える指輪が、ご夫婦の間でさえも異なる表情になっていくでしょう。“持ち主の時間を映し出す” 結婚指輪の奥深さは、手にしたその先の時間の中にあるのです。

そう考えるようになったきっかけは、古い時代のジュエリーを目にしたことでした。素材をシンプルに生かした、作りの良いものです。多くは長い時を経て傷がつき、へこみや歪み、黒ずみなどを映していました。それらを変質や劣化と受け取ることもできますが、私たちはこの“時の重なりが生み出す質感”を美しいと感じます。それは人為に調和する、自然の営みです。

「使うほどに馴染み、美しくなる」指輪は、磨き上げて終わりではありません。刻んだり叩いたりと、古くからある方法で素材の質感を引き出し、出来立てでも身に着けた瞬間から馴染むように少しだけ時間を進めた風合いに仕上げてお渡しします。

そして"使った時間を巻き戻さない"こと。お渡し後も、指輪が歩んできた時間の質感を残しながら手入れを行います。そこには私たちアトリエでさえ出せない、特別な持ち主の気配が生まれているはずですから。

私の時間に寄り添い、私の時間で磨かれる。ただの物がいつしか温度を持ち、気配を宿し、物以上の存在になっていきます。その過程をお愉しみ頂けたら、こんなに嬉しいことはありません。