JOURNAL

面影という景色

#product Journey

年が明けて初めての寄稿となりました。今年はずいぶんと暖冬で、梅の花も早咲きでした。他の花に比べても、梅の花は好きです。

他の樹々が裸になる寒々しい冬の空に、無骨な枝から小さな花を咲かせる姿が、実直でたくましい。寒いのは得意ではありませんが、この景色は冬が誇る美しさです。

新年は梅が咲くと同じ頃、Bespokeに取り組みました。Bespokeは譲り受けた古いジュエリーからこれからのスタンダードを作る取り組みです。

その中でいらしたある方は亡き母の指輪をお持ち込みくださった。亡くなって間もなく10年、詳しい指輪の出自は聞くことが叶わなかったけれど、おぼろげながら母が着けていた記憶があるとのことでした。

プラチナ製の背の高い石座。日常にはなかなか馴染みづらい形なので、お母さまもお出かけの時などにお召しになっていたよう。小さな子供にすれば、特別美しい景色だったことであろうと思います。今回はその指輪から中央のサファイアを引き継ぎ、作り替えることにしました。

ジュエリーは使うことが全てではないと思います。けれど、身につけることで、自分にとって、そして他の誰かにとっても忘れがたい景色を作り出すことができる。そうして生まれた景色を"面影"と呼ぶのではないかと感じます。

はるか昔から人々にとっての春の面影を担ってきた梅の花のように、今年も美しい景色となる物作りを続けていけたらと思います。