Product Journey
ふるまいのための装身具
私たちはこれまでも、様々な美しい装身具の姿を現代にアーカイヴするという研究を続けてきた。特にゴールドは、装身具の“素の形”を見極める旅でもある。今季はそのアーカイヴに2つの素の形を加えることにした。
まず一つは、〈チェーン〉モチーフ。ずっと形にしたかったものの一つで、アトリエでもヴィンテージチェーンのブレスレットを収集しながら研究してきた。チェーンと言うと、現代はとても華奢で軽い繊細なチェーンを思い出されるかもしれない。しかしこれは機械製造が中心になった現代におけるパーツとしてのチェーンの姿であり、一つ一つ手で作られていた時代のチェーンは、古くから「彫金」や「粒金」など驚くほどに豊かな表現が施されてきた。特に中世の貴族文化の中でチェーンは装身具として流行し、美しさは発展する。女性の間ではドレスに合わせてチェーンをあしらい、そこに小さな鏡や鋏やコンパクトなどを提げる“シャトレーン”と言うスタイルが好まれた。
私たちが集めたものはもっと近代のものだが、ディテールに時代の面影がのぞいている。道具に近い実用性と、身の廻り品としての美意識。そのどちらも備えた装身具の美しさを、チェーンは物語っているように思えた。
このマニッシュとエレガントを内包したような古いチェーンの魅力を、今季はより身軽に、身体に馴染むようなリングとして落とし込むことにした。現代の機械では生産できない複雑で繊細な組み合わせや、過去の作りでは重厚になりすぎてしまうディテールを、手仕事で丁寧に仕立てている。
そしてもう一つは〈バンドリング〉。 実はスタッフの母親が結婚指輪として着けていたリングから着想を得たものだ。確かに使われたであろう時間の痕跡とゴールドのたっぷりとした艶に惚れ惚れとした。ゴールドを薄く伸ばし巻いた指輪の形態は古代からすでにある。その形に石を留めたり絵柄や文字を刻んだりと、あらゆる器としての役割があった。私たちはそこに人肌に馴染む“張り”や“肌理”をより丁寧に作ってはいるが、大きくは古代から変わらない。
どちらもただそこに存在するだけで十分に美しいのだが、それらは古代の祈りの道具だったり、中世の夜会の道具であったりした。きっとそれを使う仕草や振る舞いを美しくしてきたのだろうと想像する。いつの時代も美しい役割があるものは古びない。