今年の夏、久しぶりにロンドンとパリへ行ってきました。ジュエリー文化の本流でもあるので、以前は定期的に訪ねていたのですが、コロナ禍以降は初めてでした。久々のヨーロッパの地。飛行機の中から眺めた大地と森林の色が日本のそれよりも青みがかっていて、あぁヨーロッパだと思わせるのでした。

しばらく来ていない間にお店やシステムなど様々な変化はありましたが、ロンドンとパリは、相変わらずのクラシックさで私たちを迎えてくれました。100年以上前の教会や建物が現代の人々にとってただの日常となっている。昔から残る画材屋、ダイナー、ギャラリー、サインショップ……ショッピングモールのような合理性とは無縁の個人店が街に並び、好きに声をかけ合い行き交う人々。多くの美術館が無料で開かれ、中では老若男女関わらずスケッチをし、自由に感性を養うことができる。合理よりも美しさを尊ぶ。古典をベースにした文化環境がこの人間的な生活（とあえて呼んでみます）を生み出しているのだとしたら、やはり少し羨ましく思います。

日本は天災を免れない風土であり、古い建物が残りづらく、意識しなければ文化の存在ごと消えてしまう。そこに合理が働くことは自然なのですが、できれば美しさを忘れぬように抗いたい。幾度も“まっさら”になりながら生まれ直すような、その積み重ねの中に、日本独自の文化性があるはずですから。

こうして久々にヨーロッパで感じた古典との往来が、今季コレクションに結実したように思います。あらゆる建造物に刻み込まれた月桂樹のモチーフ、美しい彫り留め、深みのあるカラーパレット。クラシックの源流を辿りながら、日本の女性たちに寄り添うシックなスタイルに落とし込みました。時を重ねるほどに、奥深さが馴染み続けていくことを願っています。