アトリエに越してから古いフィルムカメラで遊んでいますが、私たちの物作りはフィルムの写真と似ているように思います。 素敵だなと思って収めた光景が、すこし時間をおいてから写真という"物質"として手元にやってくる。光が焼きついた写真を通じて、こんなに美しかったのかと驚くことがあります。

今年の初めくらいでしょうか、アトリエで今季使う予定の瑪瑙や天河石、真珠などを並べて見ていました。長らく取り組んできた素材も多かったのですが、それ以上にそれらを眺めていると“どこかで出会ったことがある”という心地がしていました。それが腑に落ちたのは、隣でアトリエスタッフが「マジックアワーみたいだね」と言った時です。言葉とともに、あの時間に溢れる光の美しさや、空気のやわらかさ、溶けていくような心地ごとフラッシュバックしました。私の心の中に記録された光景が、ものを通じて現像された瞬間だったように思います。

きっとそうして気がつかないうちに、私たちはたくさんの美しいものに出会っていて、心の中に携えた小さなカメラで収めている。歳を重ねることはその枚数を重ねることのように思います。それを"現像"するにはすこしだけ自分と向き合う時間や余白が必要ですが、この外出のままならぬ時代において、もうすでに自分だけのアルバムが編まれているということを知るのも大切な心の在りようにも思うのです。

まもなく、今季のコレクションが始まります。 私たちの収めたフィルムたちを見るような気持ちで楽しんでもらえたら嬉しく思います。