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緑響く青

「碧」という漢字は「あお」とも「みどり」とも読むことのできる字だ。今季出合った天河石は、この字を当てたくなる。この石を見ていると、日本画家の東山魁夷が描いた《緑響く》という名作を思い出す。湖や池の色であり、その周りの草むらや森の匂いも含んだような、静かな緑青色である。

少々マニアックな話だが、一般的な天河石は様々な結晶が結びついて生まれる"多結晶"のために不透明の石であることが多い。けれど今回の原石はその中の青い結晶だけで成り立っているという。強く輝くわけでもなく、青としては彩度も低い。さらに石の内側に浮かぶ積層が、光が霞むような質感を生み出している。華やかな宝石というには慎ましく、頑強な石というには繊細な存在感だった。ふと思い出したのは、古いローマングラスやシーグラスだ。長い年月の中で生まれた質感と、静かでひそやかな青とが重なった。古くから青い宝石は"気高さ"の象徴とされてきたが、この青なら、もう少し自然な心地が生み出せるのではないかと思った。

仕立てていくとゴールドともトーンが揃い、積層の質感は焼き物の貫入(かんにゅう)のように自然の景色となった。古い青磁器にあるような静かな美しさが浮かんだ。自然で上品な青との出合いが嬉しかった。

昔、旅先で「日本の水が青く見えるのは水が綺麗だから。そしてそれは森林が多いからだ」という話を聞いた覚えがある。緑は青を呼び、青は緑を呼ぶ。緑深い日本はきっと青が美しく見える。