美しいものとは、人によろこびをもたらしてくれるものであると思います。

私たちはこの10月で創立から15年目を迎えます。愛用品をもつことの豊かさを求め、そのために長く寄り添う上質なジュエリーを生み出すべく、さまざまな職人や手仕事、素材に向き合い、何が心を満たすものなのか研究を続けてきました。そして同時に、美しいものを生み出すためのあらゆるピースが失われていることにも気づきました。量産化の波は日陰で静かに紡いできた手工芸を淘汰し、自然の繊細な美しさを平坦にならしてしまう。もちろんその恩恵を受けていることは百も承知なのですが、“大衆”という大きな主語の中に生活基準が取り込まれ、“私”という小さな一人称に根ざすよろこびが埋もれてしまっているようにも思います。

19世紀末に、英国のデザイナーであるウィリアム・モリスが生活と芸術を一致させるアーツ&クラフツ運動を始めました。美しいものに囲まれること、美しいものを生み出すこと。人のよろこびに根ざす物作りが使い手にも作り手にも必要であるという主張は、100年後の私たちに向けて掲げられた旗なのかもしれません。だからこそ、“私”のために心を尽くして仕立てられた古き時代の品々に浮かぶ美しさを、現代のフレームの中に掬い上げてみようと思うのです。

〈瑪瑙〉から始まる今季'22AWのコレクションは、とても古典的な素材や手仕事を多く用いています。1点しか生み出せないものも多くあります。ゆえに、きっとあなただからこそ美しいと感じられるものがあるでしょう。装身具という一個人の身体に属するものである以上、ジュエリーは“大衆”の基準ではなく“私”のよろこびを求めて良いはずです。心の琴線に触れる絵画や詩と出合うように、“私”にとっての特別なもの。かつてのジュエリーがそうであったように、私たちのコレクションもそんな存在であることを願います。