‘22AW COLLECTION
JOURNAL for One-off Diamond

鉱物と宝石のあわい

自然本来の美。そこに人間の手を添えて、品格をもたらす。その調和こそが、私たちは非常に美しいと思います。

鉱物と宝石のあわい——

そう呼べる素材が、私たちの身近なものにあります。

「魅力的な宝石は?」と聞かれたら、私たちは敢えて「ダイヤモンド」と答えるかもしれません。凡庸だと思う方もいるでしょう。その通り、ダイヤモンドは宝石の中でもオーソドックスな存在。だからこそ、格別なものにもなり得るのです。

多くの日本人の中に存在するであろうダイヤモンドの“既成概念”。それは装身具を探求する私たちとて例外ではなく、多分に人の目を霞ませるものでした。この石の本当の魅力に心動かされるまでには、長い時間がかかったものです。

私たちがダイヤモンドの個性的な側面に着目したのは、アトリエを構えて7年ほど経った頃でした。それから少しずつ時間をかけて巡り巡ってきたものは本当に個性豊かで愛おしいものです。生まれたての水を思わせる静謐な透明感。ほのかなブラウンベージュの甘い煙色。インクルージョンが描く自由奔放な景色—— 地表の遥か深く、高熱と高圧の中で形成されるダイヤモンドの中でも、まるで自然の悪戯のような一瞬の奇跡から生まれる表情を持ったピースを蒐集してきました。

普遍的かつ不可思議なこの素材に興味を抱いた私たちは、石の表情だけでなく研磨技術の歴史も辿っていきました。産業革命以前は、気の遠くなるような時間をかけてダイヤモンドをカットしています。例えば十六世紀まで主流だったローズカットに代表される、歴史途上のカット。私たちの目には、輝きを至上とするよりも自然の表情をそのままに生かしたカットとして、見事なものに映りました。

これまでの探求を振り返りながら、こつこつと集めてきたダイヤを眺めては、それらに似合うかたちを描いてきました。この素材が持つ以上の美しさに仕立てられるその日まで、大事に温めながら。

近頃のエピソードを一つ。

出合ったダイヤモンドはカットを施していない、ほとんど原石に近い状態のものでした。その佇まいにプリミティブなものを感じ、この魅力を引き受けることにしました。

カットすらないようなダイヤモンドに、どのようにして品をもたらすか。試行錯誤の末、これをヴィクトリア期のジュエリーによく見られた“ベルチャーセッティング”と掛け合わせることにしました。形の定まらない石に対しては、石と向き合う時間が質を生み、手仕事の揺らぎもそのまま感じられる。そのような作りです。

このダイヤモンドの原石は、宝石とも鉱物ともつかない、まるで野生の花のように堂々とした美しさを咲かせました。

産業技術の発展は燦然と輝くダイヤモンドを大量に生み出すことに成功しました。けれど哀しいかな、その美しさを凝らせば凝らすほど、どれも同じような顔に見えてしまう。それはどことなく、女性を取り巻く時代の側面ともオーバーラップします。世の女性たちがより自由に、多様な美を表現すること。それはいつからか、私たちがダイヤモンドという存在に託す密やかな願いともなっているのです。

salon MEDERU 11月企画展

22AW LABO
One-off Diamond

画展会期:2022.11.19(土) - 12.25(日)

アトリエが少しずつ集めてきた表情豊かなダイヤモンドを一つ一つの個性に合わせてお仕立てした特別なLABO作品展です。これまでにお作りしてきたものに加え、新たな技法を探求して生まれた作品たちが並びます。鉱物らしい自然の美しさと、宝石らしい品性のある煌めきが一粒のピースに調和する、無二の魅力を感じにいらしてください。

  • 〈One-off Diamond〉はLABOの作品展です。全て一点ものでのご用意となっております。

  • サロンにて各々の作品を直接ご覧頂くことをお勧めいたしますが、サロンへのお越しが難しい方はオンライン上でビデオを繋ぐ「Online Boutique」にてご案内いたします。