Product Journey

白くある意志

雪は白いから嬉しくなる。もしも雪に色がついていたら、何色であれ、なんと禍々しい世界だったことだろう。天の采配には感謝だ。それにしても都会の雪はすぐに踏まれて汚れてしまう。真っ白でいられるのは、ほんのわずかだ。

ここに雪になりかけの"みぞれ"のような石がある。今季使うことにした〈白翡翠〉である。

これまでも私たちは何度か翡翠に取り組んできた。翡翠の歴史を紐解きながら、日本の人にとって懐かしい憶えのある緑色を選んできた。白翡翠と呼ぶので別の種類のようにも思えるが、鉱物学的には緑となんら変わりない。同じ翡翠の原石から、できるだけ白いものを探し、白い箇所だけを切り出す。つまり緑に"染まっていない"ところだけを選ぶのだ。

もちろん「染まる」というのは表現である。鉱物の色は様々な化合物の自然な結びつきによって現れる。だからこそ、長い時を経て"白である"ことへの尊さを感じてしまう。
都会に旅立つ恋人へ「染まらないで帰って」と願う古い歌もあるけれど、まっさらなものほど染まらないことは難しいし、いつまでも真っ白だからいいとも思わない。それでも白にみる清廉な佇まいが、時を重ねるごとに一つの個性となって、凛とした強さを生み出すことも知っている。そしてそれが簡単でないことも。

白くいられるというのは意志の強さだ。「うるわし」の意味をまた思い返す。《精神的に豊かで気高く、人に感銘を与えるさま。心あたたまり、うつくしい》染まらない美しさは、うるわしいという言葉がよく似合う。

ピースを磨くと、良質な翡翠特有のうるうるとした蝋光沢が浮かぶ。石の内側では雪を固めたような結晶のテクスチャが見える。けれど雪とは違って、翡翠の結晶はとても壊れにくい。強く、たのもしく、うるわしい粒である。