'24 Autumn & Winter
LABO _ akane
地に根ざす赤
女性がどんな赤を身につけているかによって、その人の在りたい姿が、未来の自分が、そこはかとなく立ち上がるように感じる。だからこそ、自分に合う赤との出会いがあった女性は幸福だと思う。
私たちは数年前、碧玉(へきぎょく)という赤い石を見つけた。原石だけでは赤土のような地味な印象だったものが、磨くと艶のある深い赤を見せてくれた。まるで朱漆のような美しさだった。碧玉の赤は、成熟した女性たちにとって”うるわしさ”を引き出してくれるような存在だと強く感じた。その記憶はとても鮮烈で、またいつかあの赤を取り上げようと思っていた。そして今季、その機会が巡ってきた。
それは別の赤との出会いもあったからだった。黒の中から浮かび上がる赤。十勝石と呼ばれるガラス質の素材で、その表情はまるで闇夜から陽が差してくるようだった。それは曙塗りの漆器の奥深さともよく似ていた。碧玉と並べても、どちらも奥底から立ち上がるような静かな力強さを浮かべていた。赤は「明ける」から、黒は「暮れる」から取られたとされる、日本で最も古い色彩だ。その両軸が存在しているこの素材たちは、私たちがそもそも持つ感受性に根ざした色だと思えてならなかった。そこにその間の移ろいを表すような瑪瑙の景色も合わせて、〈茜〉として今季取り組むことにした。
碧玉も十勝石も瑪瑙も、昔から工房で眠っていた石だった。 茜という色も、千年前から続く古い色彩だ。 闇が明けることは、それ以上前から一日足りとも欠かすことなく、ひたむきに繰り返されている。 今思うと、静かにひっそりと私たちの心身に根を張っていた美しさに気づくだけで良かったのだ。
風土という地に根ざし、文化という知に根ざした赤が、知性ある女性たちにとってのうるわしさをきっと引き出してくれると信じている。
'24 Autumn & Winter
LABO _ akane
LOOKBOOK
東洋的感受性のもとに素材の色彩や質感を見つめ、宝石の在りようを再解釈する取組《LABO》を続けています。今季は日本で最も最初に認識されたとされる「黒」と「赤」 。「暮れる」と「明ける」という移ろいの中に日々生きてきた私たちの感受性の根源となるような色彩感覚をベースに、自身の中に根ざした美しさに改めて気づく研究でした。地中で根を張った美しさを象徴する色彩としての”茜”をテーマに、〈碧玉〉〈十勝石〉〈瑪瑙〉で仕立てる1点もののコレクションです。