'24 Autumn & Winter

Autumn selection〈Chain〉〈Nude〉

美を掘り起こす

 昔から焼き物が好きで、地方に行くと窯元を訪ねることもある。 ある時、愛用する唐津焼の作り手の作陶現場を見学させてもらった。工房ではまだ焼成前の器が綺麗に並べられ、窯に入るのを待っていた。轆轤が大変巧みな作家なので、その粘土の状態ですでに美しいのだけれど、完成した作品が並ぶギャラリーで器を見るとまたハッと驚く。釉薬がのり、絵付けが施された後の器があまりに表情豊かだからだ。唐津の土が、こんなにリズムのあるモダンな器になっていくとは、あの焼成前の姿では想像がつかなかった。こちらからすると、釉薬を纏い、絵付けという化粧を経てまるで“変身”したように見えるのだが、きっと作り手は土の塊の時からすでにその気配を汲み取っていたのだろうと思う。それくらい、完成品は自然な姿をしていた。

今季のBASICSで探求したことは、この感覚に近いものだった。 形を生み出すのは難しい。一つのデザインを発表する時は一瞬でも、それに費やす時間は数年単位のこともある。けれど使い手はそれ以上の時間を共に過ごしてくれるのだから、時間がかかってもできる限り息の長いデザインを生み出したいと思う。

ゆえに、生まれた形は不動だ。その形から、あの唐津焼のように器に潜む気配を引き出すような試みをしたかった。今回は、〈Nude〉や〈Chain〉という定番のモデルに、“彫り留め”という古典の手仕事を用いて、極めて小さなダイヤを留めている。手彫りゆえ、作品一つとっても同じものはないし、一つの形の中でも微々たる揺らぎがある。それは不均一に流れる釉薬の移ろいや、伸びやかな掻き落としの味わいのように、不動なはずの形にもゆるやかな時間の動きを引き出した。見る角度によって、身につける意識によって、日々違う表情が見える奥行きを持った。自分たちで生み出している形なのに不思議な感覚だけれど、仕上がった時は、「こんな顔も持っていたのか」と思うような、嬉しい再会だった。

そして同時に、これは人と装身具の関係性とも似ている、とも思った。 装身具をつけることで、自身の中に隠れていた新しい顔に気づいたり、周りの誰かがハッと息を呑んだりする。美しさとは見えていない地中に眠っているものだというのは今季のLABO〈茜〉でも書いたことだが、装身具はそれを身につける人から掘り起こすためのものなのだと思う。 美しさは、すでに自分の中にある。これはいつも私たちが物作りで大事にしている意識である。今回のBASICSを手にする方たちに、あわせてこの言葉を贈れたらと思う。

'24 Autumn & Winter

Autumn selection〈Chain〉〈Nude〉

LOOKBOOK

今季はBASICSの中から〈Chain〉〈Nude〉のシリーズを中心に、極小ダイヤを彫り留めた特別なお仕立てをご提案いたします。手彫りでダイヤを一粒ずつ留める伝統的な手業を重ねることにより、元来のモダンなシルエットにさらに味わい深い奥行きを感じて頂けるものに仕立てました。すべて1点ものとなり、彫り留めでのお仕立てはこのシーズンだけのご提案となります。BASICSモデルとあわせてご覧ください。