BESPOKE

08│品性のバトン

依頼者 ── K.Gさん 女性 千葉県
装身具 ── 祖母のあこや真珠の指輪
素材 ── K18 , あこや真珠

Gさんとのお付き合いはもう十年以上になる。mederuの最初のお店の頃から来てくださっているが、昔から使うものに責任持って付き合うことを大切にされる方で、決してジュエリーも多くは持っていない。その地に足のついた知性的な感覚に惹かれ、お会いできる時は色々と話し込むことが増えた。実はBESPOKE自体が、「譲り受けたジュエリーをどうしたらいいものか」というGさんの相談がきっかけで始まっている。一人の女性が何を引き継いだのか、掘り下げてみたいと思ったのだ。

Gさんは真珠の指輪を持ち込んでくださった。父方のお祖母様の形見だという。一目であこや真珠と分かるような照りのある珠で、大きさも8mmほどある。お祖母様がいつ頃これを手にしたのかは定かではないが、少なくとも数十年は前のものと考えても、古さを感じさせない気品があった。指輪部分はK18のイエローゴールド。たおやかな女性らしさの漂う指輪だった。お祖母様は教師をしていた。贅沢を好まず、あまりものを持たない人という印象があった分、形見としてこの指輪が出てきたことがGさんにとっては意外だったそうだ。合わせて残されていたのは粒の揃った真珠のネックレスだけで、他のジュエリーは一切ない。むしろ何一つ持たないなら慎ましい人だったで終わるものだが、”いざ身につけるならば真珠”と決めていたのだとしたら、そこに女性としての芯の強さを感じずにはいられない。

この日は、お祖母様との思い出の品も持ってきて頂いた。 白い箱に入っていたのは万年筆だった。祖母からGさんへ贈られたものだ。Gさんにとってのお祖母様は、“おばあちゃん”と呼べるような柔らかな毛布のような存在ではなく、背筋を正されるようなぴりりとした人だった。お祖母様は根っからの教師であったのだろう。そんな祖母に唯一褒められた記憶は字についてだ。まだ学生の頃に「字が綺麗」と褒められ、その少し後に贈られたのがこの万年筆だった。字を書く機会の減った現代においても、字が綺麗であることには心の正しさや品性を感じる。おそらくお祖母様はGさんにそれを感じ取っていたのだろう。教師としてある時代を生きた女性は、これからの時代を生きる女性へ、心の品性を託したのだ。そしてそれはきちんとGさんの中に深く根付いていると感じる。

そうなると先の真珠の指輪も、お祖母様がご自身で選んだものなのかもしれないと思えてくる。日本の女性の品性を表すのに、真珠ほどうってつけのものはない。時代が変われども、品性は永遠のスタイルである。Gさんへと受け継がれた指輪は、ネックレスへとお直しをさせて頂いた。