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うるわしの赤
赤はいつも一歩先の色だ。
これは私の勝手気ままな言説だけれど、大きく間違っていないとも思っている。つばきの花も、シャネルの口紅も、凛と美しい空気ごと連れてきてくれる。だから取り入れる自分も、すこしだけきれいな精神で臨むことが必要だ。赤という色を通じて、その瞬間、すこし新しい自分と向き合うことになるからだ。
私たちは今季、朱塗りの漆のような赤と出合った。碧玉(へきぎょく)である。原石となると地層の切れ端のような存在で、使うには正直やや地味すぎるのではないかとも思った。けれど心に触れる色だった。 その理由を知りたくて歴史を紐解くと、太古の日本、アカは"明け"の色を意味する言葉だと書いてあった。西洋の文化では赤(red)は「血」と結びつく場合が多いけれど、日本は明ける空の移ろいの色だったのだ。新しい空気をまとい、晴れやかな気持ちにさせてくれるのは、もしかすると私たち日本人ならではの赤の捉え方なのかもしれない、と思った。
碧玉を磨き上げたら、たおやかな艶が生まれた。まさに使いこんだ漆の艶のようだった。強い色だけど、肌にのせると自然と馴染む。ひとつずつ丁寧に切り出し、磨き上げ、ゴールドにはめこんで仕立てていく。しずかに新しい自分と向き合うにぴったりの赤に仕上がった。
この赤のルーツを辿っている時、同時に漆の語源が「うるわし」と言う古語であると知った。《精神的に豊かで気高く、人に感銘を与えるさま。心あたたまり、うつくしい》と言う意味だ。私たちが心触れたのは"うるわしの赤"だったのかと思うとまた腑に落ちた。赤だけではない、私たちがこれから贈るすべてのものに、うるわしさを込めて。