22SS LABO _ 翡翠 Jade

香り聞ゆ

アトリエの庭の草木が日に日に緑を深くしていきます。蜂は花の蜜を運びに、蝶は卵を産みにやってくるようにもなりました。目線を机の上に落としていても、広間から廊下へ抜けていく風がほんのりと青緑色の香りを運んでくるかのようです。

光や風の肌触りは目に見えずとも、身体の奥へと溶け込んできます。春から初夏にかけては特に、五感をめいっぱい使って歓びたくなる季節です。

時に香りは目に見えるものより強く、感情に働きかけるそうです。

この季節、青々とした香りと共に思い出すのは翡翠という石のこと。古くは縄文時代の勾玉などから始まる歴史の面影に、原初的な日本の青々とした風景が重なります。

独特の雰囲気を持つのには、その性質にも理由がありそうです。ガラスよりもぬるっとした艶は蝋光沢と呼ばれ、渇くことのない瑞々しさを感じさせます。原石の中は覗き込むと透けて見え、かと思えば靄が広がっているかのような部分もあったりと、なんとも捉え難い表情です。それもそのはずで、翡翠はいくつかの鉱物が混ざり合ってできているため、その組成のバランスによって翡翠と呼んだり呼ばなかったりと、分類的にも複雑な要素を持っています。

かわせみの羽の色からとられた名の通り、色はもちろん麗しいものですし、日本とのゆかりや東洋における文化を遡ると非常に奥が深いものがあります。艶のある黒髪と白い肌に、ひんやりとした翡翠が寄り添う......そんな憧れを思い浮かべてみますと、”優雅で品が良い”だけでは言葉足らずで、もっと奥深い気高さを感じますが、言葉にすると野暮にも思えてしまうような、少し気難しい存在。

はっきりとしない、手に届きそうで届かない。翡翠とは、そんな不可思議で、幽玄な石です。

私たちの仕立てる翡翠は、その質感をたっぷりと楽しめるような使い方を心がけます。この色と質感を肌に乗せた時、五感のなかの何かに触れる感覚を覚えたなら...... 身に着ける人の佇まいに、新たな魅力が生まれる予感がします。

うつろなものに惑わされたくない一方、わけなく惹き寄せられることもまた真なり。聞こえてくる香りに呼び覚まされるのは、私たち日本人の中に眠れる美の根源でしょうか。翡翠はやはり目に見えるよりも冴えまさる、香りのような存在に思うのです。

——何が香ひなのか。香ひ自身は知つてゐないのだ。

もし翡翠の香りがあったなら、どんな女性が身につけているものなのでしょう。

salon MEDERU 5月

’22SS LABO _ 翡翠 Jade

受注期間:'22SSでの受注会は終了。現品のみ販売。

太古より日本でも親しまれてきた〈翡翠〉。緑色のイメージがポピュラーですが、原石の表情はとても繊細で色幅豊か。一口に緑とは言えない奥行きがあります。厳選した原石から一つずつ丁寧に切り出し磨き上げ、特有の美しい「蝋光沢」が出るように仕立てます。自然でありながら上品な〈翡翠〉ならではの美しさをご堪能ください。

  • 〈翡翠〉は’22SS限定のご案内となります。7月中旬まで受注を承る予定ですが、素材がなくなり次第受注終了となります。

  • 素材の特性上、仕上がりの色や表情の出方は一つずつ異なります。魅力としてご理解くださいませ。

  • 素材の特性上、Webオーダーは承っておりません。サロンやキャラバンにお越しが難しい方は、オンライン上でビデオを繋ぐ「Online Boutique」にてご案内も可能です。