'23 Autumn & Winter
LABO | Agate
Recollect
瑪瑙と向き合うたびに、作ること以上に気づくことの大切さを知る。 木の年輪のような縞模様を描く瑪瑙の原石は、色彩や輝きのような派手さはないが、ずっと眺めていられるような味わい深さがある。そこに描かれる景色のような模様は、何万年という時間の堆積である。瑪瑙と向き合うことは、過去に思いを馳せることにも似ている。
今季選んだ瑪瑙は、昔扱った縞瑪瑙に比べて模様がまばらな原石である。 空気のような透明な空白に浮かぶ黒い斑点や水彩絵の具が滲んだような表情は、まるで抽象画のようであった。かつて瑪瑙は“ピクチャーアゲート”と言って、風景を見つけて絵画のように親しまれてきた。それらの多くは人の手によって瑪瑙に着色され、作為的に風景画として仕上げられたものだが、私たちは今回の原石に浮かんでいる何の景色と言い切れない自然のままの抽象性にこそ、見る人の心象や記憶を委ねることができると感じた。美しい風景を見ること以上に、見る人の中にすでに美しい景色があることに気づいてもらえたら良いと思った。
実は、瑪瑙という存在もそもそも眠っていた素材だった。私たちが初めて瑪瑙を取り上げた10年前は、ジュエリーとして使われることはほとんどない素材だったので、宝石研磨彫刻の工房でも先代が集めた原石が埃をかぶって転がっていた。それでも二代目の職人たちは自らを瑪瑙屋の息子と言っていた。誰も気づかないだけで、美しいものはすぐそばにずっと在ったのだ。
きっとそうやって過去のものとして眠っている美しさが他にもあるのだろう。美しさとはそばにあって、あとはただ気づくだけ。それが今も私たちの物作りの指針になっているように思う。