'24SS LABO

水晶 | Crystal & Shell

光と影のあわいに

春が近くなってきたとある日のこと。アトリエの小さな庭で犬を抱えながらぼんやりとしていたら、モッコウバラの生垣に光がさして、庭に木洩れ日ができていた。風が吹くとその光と影がゆらゆらと移ろい、消えては光り、また消えては光り……を繰り返していた。その柔らかな春の影はとても温かで心地の良いものだった。

この景色によく似た表情を持った素材が、今季の〈水晶〉だった。正確に言うと、ほんのりブラウンがかった水晶と白蝶貝を二つ貼り合わせて作るダブレット仕立てのピースである。水晶も白蝶貝も、これまで何度も取り組んできた素材たちだが、合わせて使うのは初めてのことだった。

これまで水晶の探究は“陰影”の研究だった。水晶という非常に透明性が高く、けれどダイヤのような反射の起きない静かな素材に対し、手仕事で奥行きを生み出すことで慎ましい“翳り”を見出すことを意識してきた。障子にさす月明かりのような静かな表情は、とても日本的な素材であると感じていた。一方で白蝶貝もずっと取り上げ続けている素材で、こちらは“光”の素材である。透明な真珠層の積み重ねによって生まれた積層は干渉色を伴い、うるうるとやわらかな光をたたえている。その二つが重なりあった時、互いの素材の魅力が立ち上がり、木洩れ日のような光と影が同居する穏やかな表情が浮かんだ。とても美しく、心地よいと思った。

そもそもダブレットという作りはジュエリーという業界の常識で見ると、模造品という文脈で語られることすらある。しかしそれは素材に対する価値基準が一つしかない狭き世界の話であり、むしろ二つが合わさることでそれぞれの美しさを引き出し合い、新しい魅力に気づくことすらできる。木洩れ日の光と影が常に一定ではないように、重ね合わせた水晶と白蝶貝の表情はそれぞれに異なっている。水晶のブラウンの濃淡と、白蝶貝の質感によって生まれる、淡い影、濃い影、深い影。そうした自然の移ろいゆく瞬間を写真を撮るように切り取り収めていくのは、極めて工芸的アプローチであったと改めて感じている。

光と影、そのあわいに立つことで浮かび上がる美しさがある。ちなみに「木洩れ日」とは、日本語でしか表現できない言葉だそうだ。英語で言おうとすると直訳になってしまい、この言葉の奥にある温かさや静かな時間、沁みいる美しさなど、私たちが感じている情景まで語ることは難しい。日本語の持つ豊かな奥行きが誇らしくなるのはこういう時だ。その幸福感を胸に留めながら一つ一つのピースを見つめてみると、よりふくよかな美しさが見えてくるだろう。

'24SS LABO

水晶 | Crystal & Shell

LOOKBOOK

ブラウンがかった水晶と、白蝶貝を合わせたダブレットのピースで作るコレクション。水晶のレンズ効果によって白蝶貝の持つテクスチャが浮かび上がり、ブラウンの濃淡の差によってその表情に幅を持たせています。水晶と白蝶貝という硬度の全く異なる素材を重ね合わせていくため、仕立てるには繊細な手仕事の感覚が必要とされる工芸的なピースです。1点1点にそれぞれの素材の個性が浮かぶ1点もの。光と影の織りなす穏やかな美しさを、どうぞご覧ください。

Release:2024 3.9~('24SS限定受注)
Price:98,000~