‘25 Spring & Summer

LABO _ 真珠

お仕着せを脱いだ先に

若い頃、真珠のピアスは右耳だけに添えることが多かった。
もう片方を失くしたわけでなく、冠婚葬祭の場となれば揃って着ける。普段は両耳に真珠を着けると、こそばゆい気分になった。真珠を一揃いあしらってみた時には、鏡に映る自分が借りてきた別人のように感じられて、途端にサッと外してしまった。

その違和感は、どこからきていたのだろう。

真珠の存在を初めて意識したのは幼い頃、誰もが多かれ少なかれ目にしてきた景色の中でだ。葬儀の参列や晴れの席へのお呼ばれの時、母と祖母の首周りに並んだ綺麗な白い珠。それから絵本に出てくるプリンセス。ドラマの中の深窓の令嬢。ビル街を闊歩するオフィスワーカー。彼女たちの装いには、微笑みと共にいつも真珠が添えられていた。仕事に就く時、年上の女性から淡水パールのピアスを頂いたこともあった。

社会に出てみると、子供の頃にぼんやり抱いていた「真珠の似合う女性」と自分には少し距離があると分かった。フルメイクすると顔が派手になるし、自分の肌色に合うストッキングは今も分からない。とうに成人しているのに「女子」と呼ばれ、一括りにされることにも少し憤った。

それでも真珠のあの柔らかな光沢は心にしっかりと残像を残しており、ぼんやりとした憧れが消えることはなかった。ダイヤモンドや他の宝石とは違う特別さがあった。

私たちは10年前に、縁あって初めて真珠の養殖地を訪れた。自分たちの手から送り出すものがどんな場所で生まれているのか、この目で直接確かめることができた。なだらかな山が海へと迫り出し、自然の恵みがそのまま注がれているような静かな入り江。日本の原風景を思い起こさせるその場所で、初めて本当の”真珠”を知ったように感じた。稚貝の時から大事に人の手をかけ、春夏秋冬の滋養をたくわえる穏やかな海に抱かれ、丁寧に時を重ねた真珠たち。その力強い生命感をともなう豊かな照りは、どんな色や形をしていようと私たちの目には等しく美しく、また尊いものに映った。

そして現在。海を取り巻く環境の変化で、上質な真珠は希少化の一途を辿っている。私たちは改めて、いま手の中にある真珠の尊さを知ることになった。ここで一度自分の中にある、真珠と私たち女性のあいだにある無意識の距離に目を向けようと思った。自分自身に起きた変化、周囲の女性たちの変化、世の中の変化をよく味わってのみこんで、ようやく分かったことがある。

「女性らしい」よりも、自分らしくありたい。けれど女性であることもまた、自分の一部。

その輪郭は人の数だけ異なるグラデーションを描きながら、ゆったりと溶け合っている。数々の「⚪︎⚪︎らしい」お仕着せには収まらなかった歪な自分らしさに、真珠を眺めるごとく温かい眼差しを送りたくなった。

良い真珠には顔が映り込む。照りが強く上等な真珠がそれにあたる。今年も養殖家が手塩にかけた真珠を選りぬき、手元に集った真珠たち。覗き込むと、それぞれの珠に一つずつ自分が映り込む。その影はこれまでの時間を重ねてきた私であり、同じ時代を生きている数多の女性たちでもあってほしい。

今は両方の耳に、毎日のように真珠を添えられるようになった。きっとまた10年20年と時を重ねた地点からは、別の景色が見えるだろう。その航路は誰にあつらえられた地図ではない。自らの手で進めばこそ真にひらけていく。

‘25 Spring & Summer
LABO _ 真珠

LOOKBOOK

MEDERUの選ぶ真珠は、長い時間の中で丁寧に育まれて生まれる自然なかたち、自然な色を纏ったピースたち。同じものはふたつとありません。今季はこれらのピースを生かし、指輪やピアス、ネックレスなどの1点もののコレクションを仕立てました。ほのかに血色を帯びたような珠。海や空の色に似た青みのある珠。豊かな時間を重ねた美しさに呼応する、あなたのための真珠が見つかることと思います。


information
あこや真珠の個体の魅力を追求するために、今季から通年受注をやめ、一点ものを中心とした企画展としてご案内いたします。会期中のみオーダー可能なものもございますので、ぜひsalonにてご覧くださいませ。

企画展:one-off & order event
会期:2025.6.21-7.21
場所:at salon MEDERU
※salonご来場者優先のため、今季新作は会期後半(7月上旬)に公開予定